大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)9492号・昭57年(ワ)9125号
原告
東喜代子
原告
西村恭子
原告
飯尾喜久子
原告
吉川恵美子
原告
岡野泰子
原告
西本道子
原告
門井芳子
原告
朝広美佐子
原告
土居安子
原告
福田純江
原告
澤村冨美子
原告
森本宏
原告
佐藤美佐
原告
平尾美穂子
原告
寺島春江
原告
松井朝子
原告
山田静子
原告
長井幸子
原告
高井順子
原告
森本昭子
原告
南方保子
原告
朝次子
右原告ら訴訟代理人弁護士
寺沢勝子
同
正木みどり
同
大川真郎
同
宮地光子
同
渡辺和恵
同
平野鷹子
同
山口健一
同
山川元庸
同
松岡康毅
同
岩永恵子
被告
日本シェーリング株式会社
右代表者代表取締役
ヨルグ・グラウマン
右訴訟代理人弁護士
門間進
同
飯島久雄
主文
一 被告は、別紙請求債権目録一記載の各原告らに対し右各原告らに対応する同目録一の(20)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する同目録一の(16)欄記載の各金員に対する昭和五七年一月一二日から、同(18)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り、右各原告らに対応する同目録一の(21)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
二 被告は、別紙請求債権目録二記載の各原告らに対し右各原告らに対応する同目録二の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する同目録二の(15)欄記載の各金員に対する昭和五七年一月一二日から、同目録二の(17)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する同目録二の(4)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
三 被告は、別紙請求債権目録三記載の原告南方保子に対し、同目録三の(7)の認容額欄に記載の金員及びこれに対する昭和五七年一月一二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、別紙請求債権目録四記載の各原告らに対し右各原告らに対応する同目録四の(18)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する同目録四の(14)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一月一二日から、同目録四の(16)欄記載の各金員に対する昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、同目録四記載の原告森本昭子に対し、昭年五八年一月から毎月二五日限り右原告に対応する同目録四の(3)欄に記載の金員をそれぞれ支払え。
五 被告は、別紙請求債権目録五記載の原告東喜代子に対し、同目録五の(13)の認容額欄に記載の金員及びそのうち同目録五の(9)欄に記載の金員に対する昭和五七年一二月一一日から、同目録五の(11)欄に記載の金員に対する昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り同目録五の(2)欄に記載の金員をそれぞれ支払え。
六 原告らのその余の請求を棄却する。
七 訴訟費用はこれを六分し、その五を被告の負担としその余を原告らの各負担とする。
八 この判決は、第一項ないし第五項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙請求債権目録一記載の各原告らに対し右各原告らに対応する同目録一の(19)欄に記載の各金員及び、そのうち同目録一の(17)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一月一二日から、同目録一の(18)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一二月二五日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する同目録の(5)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
2 被告は、別紙請求債権目録二記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する同目録の(18)欄に記載の各金員及び、そのうち同目録二の(16)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一月一二日から、同目録二の(17)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一二月二五日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する同目録二の(4)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
3 被告は、別紙請求債権目録三記載の原告南方保子に対し、同目録三の(6)欄に記載の金員、及びこれに対する昭和五七年一月一二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告は、別紙請求債権目録四記載の各原告らに対し右各原告らに対応する同目録四の(17)欄に記載の各金員及び、そのうち同目録四の(15)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一月一二日から、同目録の(16)欄に記載の各金員に対する昭和五七年一二月二五日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、同目録四記載の原告森本昭子に対し、昭和五八年一月から毎月二五日限り右原告に対応する同目録の(3)欄に記載の金員をそれぞれ支払え。
5 被告は、別紙請求債権目録五記載の原告東喜代子に対し、同目録五の(12)欄に記載の金員及び、そのうち同目録五の(10)欄に記載の金員に対する昭和五七年一二月一一日から、同目録五の(11)欄に記載の金員に対する昭和五七年一二月二五日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り同目録五の(2)欄に記載の金員を、それぞれ支払え。
6 訴訟費用は被告の負担とする。
7 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、肩書地(略)に本社を、全国二九か所に営業所を置き、西ドイツのシェーリング・AG・ベルリン・ベルクカーメン株式会社より医薬品の輸入をし、また、医薬品の製造・販売を業とし、従業員約七五〇名を擁する株式会社である。
(二) 原告らは、いずれも被告の従業員(但し、現在は原告南方保子、同朝次子は退職者)であり、かつ総評化学同盟日本シェーリング労働組合(以下、日シ労組と略称する。)の組合員である。
(三) 被告には、日シ労組の他に、被告の営業所従業員を中心に組織されている全日本シェーリング労働組合(以下、全日シ労組と略称する。)及び昭和四九年六月に日シ労組から脱退した者を中心に組織された「職場と生活を守る会」(以下、守る会と略称する。)なる御用組織が存在する。
2 被告は、昭和五一年春闘時より、日シ労組との賃金引上げ協定の締結に際し、賃金引上げ対象者から稼働率八〇パーセント以下の者を除くという、いわゆる「八〇パーセント条項」(以下本件八〇パーセント条項と略称する。)及び新賃金は妥結した月より適用するという、「妥結月払い条項」(以下本件妥結月払条項と略称する。)を押しつけ、日シ労組に賃金引上げに関する協定(以下本件各協定と略称する。)を締結させ、その後今日に至るまで、毎年右各条項と一括でなければ賃金引上げ協定の締結に応じられないとして、右各条項を協定の一項目とさせてきた。
別紙請求債権目録一記載の各原告らは、昭和五一年から同五四年までのうち同目録一の(1)欄に記載の各年度に、本件八〇パーセント条項に該当するとして、該当年度の賃金引上げなしという不利益を被ったものである。そこで、右各原告らは、本件八〇パーセント条項を、公序良俗違反、不当労働行為により無効であるとして、被告に対し、未払賃金等の支払を求めて、大阪地方裁判所に訴えを提起し(大阪地方裁判所昭和五二年(ワ)第一一六八号、同五三年(ワ)第七一二二号、同五五年(ワ)第二〇五〇号賃金請求事件)、昭和五六年三月三〇日、本件八〇パーセント条項が公序良俗違反であるとして、被告に対し、右各原告らに別紙請求債権目録一の(2)欄に記載の各金員を支払うべき旨の右原告ら勝訴の判決が言い渡された。
3 賃金引上げに関する協定の成立と原告らに対する賃金引上げ額の不支給
(一) 被告は、前記賃金請求事件が、大阪地裁に係属中の昭和五五年度春闘においても、日シ労組との団体交渉を拒否し、その形骸化をはかる不当労働行為を重ねたうえ、本件八〇パーセント条項と本件妥結月払条項を押しつけてきた。これに対し日シ労組は、昭和五一年からの春闘における闘争経過から、現時点でこれ以上闘い続けることは妥結月払条項による組合員の経済的困窮、不安を拡大させ、団結維持にとっても回復し難い損害を与えることになると判断し、組合内部では闘い続けることを確認のうえ、被告に今後ともその違憲、違法性を追及することを明らかにし、後記(二)に記載のとおり昭和五五年度協定の締結に踏み切った。
(二) 昭和五五年四月二七日、日シ労組と被告との間に左記内容を含む昭和五五年度賃金引上げに関する協定(以下昭和五五年度協定と略称する。)が成立した。
(1) 賃金引上げ率 昭和五四年度基本給に対し、平均八・八パーセント
(2) 配分方法
イ 定期昇給 各資格級共三号俸
ロ 定率配分 基本給の六・五パーセント
ハ 定額配分 一律一人当り五〇〇円
ニ 是正分 基本給に対し、平均〇・二パーセント(但し、是正該当者にのみ適用)
ホ 家族手当の増額
妻 月額二〇〇〇円
子 月額一〇〇〇円
(3) 賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする。但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五五年一月一日以降入社した者、稼働率八〇パーセント以下の者を除く。
(4) 新賃金は協定を妥結した月より適用する。
(三) 日シ労組は、前記賃金請求事件につき昭和五六年三月三〇日判決が言い渡された直後の同年四月一日労使間の紛争の全面的解決をはかるべく被告に対し団体交渉の申し入れを行ったが、被告は、話し合いによる労使間紛争の解決には一顧だにしなかった。
また、日シ労組は、これに先だつ同年三月一八日に春闘要求を提出したが、被告は、八〇パーセント条項、妥結月払条項を重ねて強要するという、違法不当なものであった。そこで、日シ労組は、抗議スト、抗議集会、抗議文書などで闘ったが、被告の姿勢は、昭和五一年以降の春闘におけるものと全く変わらなく、事実上団体交渉を拒否し、形骸化を行ったので、日シ労組は、賃金引上げを実施させ団結を守るため、やむを得ず異議を留めて昭和五六年四月三〇日、後記(四)に記載のとおり、賃金引上げの協定を締結した。
(四) 昭和五六年四月三〇日、日シ労組と被告との間に左記内容を含む昭和五六年度賃金引上げに関する協定(以下昭和五六年度協定と略称する。)が成立した。
(1) 賃金引上げ率 昭和五五年度基本給に対し、平均九・七パーセント
(2) 配分方法
イ 定期昇給 各資格級に対する定期昇給は次のとおりとする。
一級職 三〇〇〇円
二級職 三七五〇円
三級職 四五〇〇円
四級職 五二五〇円
五級職 六〇〇〇円
六級職 六七五〇円
七級職 七五〇〇円
八級職 八二五〇円
九級職 九〇〇〇円
一〇級職 九七五〇円
ロ 定率配分 基本給の四パーセント
ハ 定額配分 一律一人当り五〇〇円
ニ 是正分 基本給に対し、平均〇・二パーセント(但し、是正該当者にのみ適用)
ホ 家族手当の増額
妻 月額二〇〇〇円
子 月額一〇〇〇円
ヘ 役付手当の増額
主任 月額五〇〇円
係長 月額一〇〇〇円
(3) 賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする。但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五六年一月一日以降入社した者、稼働率八〇パーセント以下の者を除く。
(4) 新賃金は協定を妥結した月より適用する。
(五) 日シ労組は、昭和五七年三月一二日に春闘要求を提出し、以後早期解決のため団体交渉の申し入れ等をしたが、被告は、これを拒否し、同年四月九日に至って、八〇パーセント条項、妥結月払条項を含む有額回答をしてきたものの、日シ労組との団体交渉については、開催日、時間帯、場所、参加者数について被告の提案に応じない限り団体交渉に応じない姿勢をとりつづけ、しかも、ようやく開かれた団体交渉においても事実上団体交渉を拒否し、形骸化を行い、被告の協定案を押しつけるだけであった。そのため日シ労組は、四月中に妥結調印しないと妥結月払条項による不利益を被るうえ、組合員の不安を拡大させ、団結維持にとっても回復し難い損害を受けることになると判断し、従前同様、組合内部では闘い続けることを確認のうえ、被告に今後ともその違憲、違法性を追及することを明らかにし、やむを得ず異議を留めて同年四月二八日、後記(六)に記載のとおり協定を締結した。
(六) 昭和五七年四月二八日、日シ労組と被告との間に左記内容を含む昭和五七年度賃金引上げに関する協定(以下昭和五七年度協定と略称する。)が成立した。
(1) 賃金引上げ率 昭和五六年度基本給に対し、平均九・三九パーセント
(2) 配分方法
イ 定期昇給 各資格給に対する定期昇給は昭和五六年度協定と同じとする。
ロ 定率配分 基本給の三・二七パーセント
ハ 定額配分 一律一人当り五〇〇円
ニ 是正分 基本給に対し、平均〇・一パーセント(但し、是正該当者にのみ適用)
ホ 家族手当の増額
妻 月額一〇〇〇円
子 月額五〇〇円
ヘ 住宅手当の増額 住宅手当二九条一項に該当するもの 月額二五〇〇円、二項に該当するもの 月額二〇〇〇円、三項に該当するもの 月額 二〇〇〇円
ト 資格給 各資格級に対する資格給を次のとおりとする。
一級職 一五〇〇円
二級職 三〇〇〇円
三級職 四五〇〇円
四級職 六〇〇〇円
五級職 七五〇〇円
六級職 一万円
七級職 一万二五〇〇円
八級職 一万五〇〇〇円
九級職 一万七五〇〇円
一〇級職 二万円
(3) 賃上げ対象者は妥結時在籍者で稼働率八〇パーセント以上の者とする。但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五七年一月一日以降入社した者を除く。
(4) 新賃金は協定を妥結した月より適用する。
(七) 被告は、別紙請求債権目録二、三記載の各原告らについては昭和五五年度の賃金引上げに際し、別紙請求債権目録四記載の各原告らについては昭和五六年度の賃金引上げに際し、別紙請求債権目録五の原告東喜代子については昭和五七年度の賃金引上げに際し、それぞれの稼働率が八〇パーセント以下であって、本件八〇パーセント条項に該当するとして右賃金引上げ額、これに対応する夏季冬季一時金、退職金を支払わない。
《以下事実略》
理由
一 被告が肩書地に本社を、全国二九か所に営業所を置き、西ドイツのシェーリング・AG・ベルリン・ベルクカーメン株式会社から医薬品の輸入をし、また、医薬品の製造販売を業とし、従業員約七五〇名を擁する株式会社であること、原告らは、いずれも被告の従業員(但し、現在は、原告南方保子、同朝次子は退職者)であり、かつ、総評化学同盟日本シェーリング労働組合(日シ労組)の組合員であること、被告には、日シ労組の外、全日本シェーリング労働組合(全日シ労組)と、「職場を守る会」(守る会)なる組織があること、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 次に、被告は、昭和五一年春闘時より、日シ労組との賃金引上げ協定の締結に際し、賃金引上げ対象者から稼働率八〇パーセント以下の者を除くという条項(本件八〇パーセント条項)及び新賃金は妥結した月より適用するという条項(本件妥結月払条項)を提案し、日シ労組との間に、右各条項を含んだ賃金引上げに関する協定を締結し、その後今日に至るまで毎年右各条項と一括でなければ賃金引上げ協定の締結に応じられないとして、右各条項を協定の一項目としてきたこと、別紙請求債権目録一記載の各原告らは、昭和五一年から同五四年までのうち同目録一の(1)欄に記載の各年度に、本年八〇パーセント条項に該当するとして、その賃金引上げの対象から除外され、該当年度の賃金引上げがされなかったこと、右各原告らは、本件八〇パーセント条項を、公序良俗違反、不当労働行為により無効であるとして、未払賃金等の支払を求めて、被告を相手にして、大阪地方裁判所に訴えを提起したこと(大阪地方裁判所昭和五二年(ワ)第一一六八号、同五三年(ワ)第七一二三号、同五五年(ワ)第二〇五〇号賃金請求事件)、右各事件につき、同裁判所は、昭和五六年三月三〇日、本件八〇パーセント条項が無効であるとして、被告に対し、右各原告らに別紙請求債権目録一の(2)欄に記載の各金員を支払うべき旨の判決を言い渡したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
三 更に、
1 昭和五五年四月二七日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五四年度基本給に対し、平均八・八パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする、但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五五年一月一日以降入社した者及び稼働率八〇パーセント以下の者は除く(本件八〇パーセント条項)、(ハ)新賃金は妥結した月より適用するとする外、原告ら主張の内容による昭和五五年度賃金引上げに関する協定が成立したこと、
2 昭和五六年四月三〇日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五五年度基本給に対し平均九・七パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする、但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五六年一月一日以降入社した者及び稼働率八〇パーセント以下の者を除く、(ハ)新賃金は妥結した月より適用するとする外、原告ら主張の内容による昭和五六年度賃金引上げに関する協定が成立したこと、
3 昭和五七年四月二八日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五六年度基本給に対し、平均九・三九パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする、但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五七年一月一日以降入社した者及び稼働率八〇パーセント以下の者を除く、(ハ)新賃金は妥結した月より適用するとする外、原告ら主張の内容による昭和五七年度賃金引上げに関する協定が成立したこと、
4 被告が、別紙請求債権目録二、三記載の各原告らについては昭和五五年度の賃金引上げに際し、別紙請求債権目録四記載の各原告らについては昭和五六年度の賃金引上に際し、別紙請求債権目録五の原告東喜代子については昭和五七年度の賃金引上げに際し、それぞれの稼働率が八〇パーセント以下であって、本件八〇パーセント条項に該当するとして、右賃金引上げ相当額、これに対応する夏季冬季一時金、退職金を支払わないこと、
以上の事実については、いずれも当事者間に争いがない。
四 八〇パーセント条項の効力
原告らは、本件各協定中、稼働率八〇パーセント以下の者を賃金引上げ対象者から除く旨の条項(本件八〇パーセント条項)は、憲法一三条、一四条、二五条、二七条、二八条、労基法三九条、六五条、六六条、六七条、労組法七条に違反し、民法九〇条の公序良俗に反して無効であると主張するので、以下その点につき検討する。
1 八〇パーセント条項の内容は、前年一月から一二月までの一年間の稼働日数中の所定労働時間から不就労時間を控除した時間を所定労働時間で除したところの稼働率が八〇パーセント以下の者について、賃金引上げ対象者から除外し、賃金引上げを行わないとのものであること、被告は、同条項の適用について、右稼働率の算定の基礎となる不就労時間に、欠勤、遅刻、早退によるものの外、年次有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、産前産後の休暇、育児時間、労働災害休業、労働災害の治療のための通院、ストライキ等組合活動によるものを含めて、右稼働率の計算をしていること、以上の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入される年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキその他の組合活動のための時間の法律上の特質等について検討する。
(一) 年次有給休暇
労基法三九条は、労働者が一年以上継続して勤務しその出勤率が八割以上の場合には六日の年次有給休暇を、その後勤務一年ごとに一日を加算した日数を最高二〇日の限度内において年次有給休暇を与えるべき旨規定しているところ、右規定は、休日の外に毎年一定日数の有給休暇を労働者に与えることによって、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養をはかるとともに、労働者の娯楽さらには能力の啓発のための機会を確保することを目的としたものである。
しかして、右年次有給休暇は、単に使用者からの恩恵として与えられるものではなく、年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件が充足されることによって、法律上当然に労働者に生ずる権利であって(最高裁判所昭和四八年三月二日判決・民集二七巻二号一九一頁)、右年次有給休暇日に就労したときは一定の金銭等を支給する旨のいわゆる年次有給休暇の買上げ契約や、その他右年次有給休暇を放棄する旨の契約は、労基法三九条一、二項に違反して無効であると解すべきであるし、また、年次有給休暇を取得した場合には、その日数に応じて相当多額の収人減少を伴うことが予め定められている契約は、年次有給休暇の買上げと同様の効果があるから、労基法三九条一、二項に違反するか、或いは民法九〇条の公序良俗に違反するものとして無効と解すべきであるし、さらに、年次有給休暇日を取得せずに稼働した場合には、特別の賞与を支払う旨の契約も、労働者において年次有給休暇を取ることを差控える傾向を招くことになり、間接的に年次有給休暇の取得を抑制することになるから、労基法三九条一、二項に違反することを免がれないと解すべきである。従って、労働者が年次有給休暇をとったことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすることは、労基法三九条一、二項に違反し、許されないものというべきである。
(二) 生理休暇
労基法六七条は、生理日の就労が著しく困難な女子又は生理に有害な業務に従事する女子が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているところ、右規定は、女子特有の生理現象及びその後の肉体に及ぼす影響を考慮して定められた女子労働者に対する保護規定である。女子の生理日における労働がその健康に影響を及ぼすか否かについては、医学上議論の存するところではあるが、労基法六七条が、請求のある場合に女子の生理日における就労を禁止していることは、女子労働者が生理日に休暇を取る権利を法律上認めたものというべきであるから、右生理休暇に関する権利行使をしたことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすることは許されないものといわなければならない。もっとも、生理休暇中の賃金の支払に関しては、労働契約や就業規則によって任意に定めることができるから、女子労働者の全部について、一律に生理休暇中の賃金を支払わない旨定めることも違法ではないのであるが、この取扱いは、有償双務の雇傭契約の特質上、生理休暇により労働をしないことに対する当然の結果であり、何ら法律上の不利益な取扱いではないというべきである。
しかし、生理日に出勤した女子に通常の賃金以外に特別の手当を支給したり、あるいは反対に生理休暇を取得した場合に賃金その他の労働条件について著しく不利益を課すことは、生理休暇の取得を抑制することになりかねないから、労基法六七条に違反して許されないものと解すべきである。
(三) 産前産後の休暇
労基法六五条は、産前及び産後の各六週間以内に(但し、産前の六週間と産後の五週間以後は請求のあった場合に限る。)、女子労働者を就労させてはならない旨規定しているところ、右規定は、母性を保護するための保護規定であり、産前産後の休暇は、古く旧工場法や鉱業法においても認められていたものである。
産前産後の休暇を取得することは、法律上女子労働者に認められた権利であるから、産前産後の休暇によって休業した期間は、労基法三九条一項の年次有給休暇に関する規定の適用については出勤とみなされるし(同条五項)、また、使用者は、産前産後の女子が右労基法六五条の規定によって休暇をとっている期間及びその後三〇日間は、解雇をしてはならない法律上の義務を負っている外(労基法一九条)、女子労働者が産前産後の休暇をとったことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないと解すべきである。もっとも、産前産後の休暇中の賃金を支払うか否かは、生理休暇の場合と同様に、労働契約や就業規則で自由に定めることができるのであって、産前産後の休暇中の賃金を支払わない旨定めることも、勿論適法ではあるが、これは、双務有償である雇傭契約の性質上労働をしないことに対する当然の結果で、何ら不利益な取扱いではないというべきである。
(四) 育児時間
労基法六六条は、生後満一年に達しない生児を育てる女子から請求があった場合には、正規の休憩時間(労基法三四条の休憩時間)の外、一日二回各々少くとも三〇分間、当該女子労働者を使用してはならない旨規定しているところ、右各規定は、女子労働者が生後一年未満の生児を育てている場合において、育児時間を与えられなければ、休憩時間中に補乳をしたり、その世話をしなければならないところから、生児に授乳その他の世話をするための時間と、一般の休憩時間とを別に確保し、あわせてかかる女子労働者に対し、作業から離脱できる余裕を与えるために設けられた保護規定である。女子労働者が右育児時間をとることも法律上認められた権利であるから、使用者は、女子労働者が右育児時間をとったことを理由に賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないものというべきである。なお、育児時間中の賃金については、月給もしくは日給の場合には、原則として差引くことは許されず、ただ時間給の場合にのみ、労働契約等でこれを差引くことができるものと解すべきである。
(五) 労働災害による休業及び通院時間使用者は、労働者の労働によって収益をあげている以上、その労働に伴う災害について責任を負うべきは当然である。そして、労基法七五条は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない旨規定し、同法七六条は、労働者が業務上の災害による療養のため、労働することができない場合には、使用者は、労働者の療養中平均賃金の六〇パーセントの休業補償を行わなければならず(同条一項)、また、労働災害を受けて休業補償を受けている労働者の補償額にくらべ、同一事業場における同種の労働者の通常の賃金の一定期間における平均賃金額が、一二〇パーセントを超え、又は八〇パーセントを下るに至った場合には、右休業補償の額を右比率に応じて改定しなければならない(同条二項)旨規定し、さらに、同法七七条は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合には、その障害の程度に応じて、平均賃金に一定率を乗じた金額の障害補償を行なわなければならない旨規定しており、同法一九条は、使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、療養のため休業する期間は、解雇してはならない旨規定し、さらに同法三九条五項は、業務上災害による休業は、同条一項の年次有給休暇の計算に当っては、出勤したものと看做す旨規定している。しかして、これらの労基法の各規定に照らせば、労働者が労働災害を受けた場合には、使用者は、その過失の有無を問わず、極力右労働災害により労働者の被った損害の補償に努めるべきであり、使用者に過失がある場合には、民法等の規定により、労働者の被った全損害を賠償すべき義務があるものというべきである。従って、労働者が労働災害によってかかった傷害や疾病のため、やむなく休業をし、或いは、通院をした場合において、その不就労を理由に、その後の賃金引上げやその他の点において、他の労働者と差別をし、不利益な取扱いをしてはならない義務を負うことは当然である。そして、前記休業補償のスライド制を認めた労基法七六条二項の趣旨に照らして考えれば、労働災害後の経済事情の変動等のため、同一事業場における同種の労働者の賃金が上昇した場合には、使用者は、労働災害により休業していた労働者がその後就労するに至った際の賃金も、当然に右上昇割合に応じて上昇させるべき法律上ないし条理上の義務があるものと解すべきであって、右労働災害による休業や通院による不就労を理由として、賃金引上げを拒否することは、右労基法の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。
(六) ストライキ・団体交渉及びその他組合活動
労働者が使用者に対する要求を貫徹するため、ストライキや団体交渉を行うことは、憲法二八条で保障された権利であって、労働者がストライキや団体交渉を行ったことを理由として、その労働者に対し不利益な取扱いをすることの許されないことは勿論である(労組法七条)。しかして、労働者がストライキや団体交渉を行なったために就労しなかった場合において、右不就労に対応する賃金を支払わないことは、有償双務契約である雇傭契約の性質上何ら不利益な取扱いではないが、ストライキや団体交渉中の不就労を理由として、その将来における賃金引上げを拒否し、或いは、他の労働者との間に差別を設けて不利益な取扱いをすることは、結局、ストライキや団体交渉を理由にした不利益な取扱いであって許されないものというべきである。けだし、ストライキや団体交渉と不就労とは表裏一体の関係にあり、ストライキや団体交渉には必然的に不就労を伴うので、ストライキや団体交渉中の不就労を理由とした不利益な取扱いはとりもなおさずストライキや団体交渉そのものを理由とした不利益な取扱いに外ならないからである。
なお、ストライキや団体交渉以外の日常の組合活動については、使用者の承認を得た場合、労働者が雇傭契約の義務の履行としてなすべき身体的精神的活動と何ら予盾なく両立し、業務に支障を及ぼすおそれのない場合、その他緊急の必要性がある場合は格別、それ以外の場合の日常の組合活動は、勤務時間外になさるべきであるから、右例外的な場合を除く勤務時間中の日常の組合活動による不就労を他の一般の欠勤による不就労と同様に取扱い、本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入することは何ら違法ではないというべきである。
3 以上の通り、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得することは、労基法三九条、六七条、六五条、六六条により労働者に認められた権利であるから、使用者は、労働者が右権利を行使して年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得して就労をしなかったことを理由に不利益な取扱いをしてはならないし、さらに使用者は、労働災害による休業及び通院による不就労についても、労基法七五条、七六条、七七条、一九条、三九条(五項)等の規定の趣旨に照らし、右不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならず、さらに、ストライキや団体交渉による不就労についても憲法二八条、労組法七条の規定により右不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならないというべく、このことは、右不利益を受けるにつき労働者の包括的な承諾があった場合も同様に解すべきである。けだし、右労基法等で保障された権利行使を理由に不利益な取扱いを承諾することは、強行法規である右労基法等が右権利を保証した趣旨に反することになるし、また、現実にも労働者にその権利行使を抑制させる結果を招くことになるからである。
ところで、本件八〇パーセント条項は、前記の通り年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキや団体交渉等による不就労を、稼働率を算出するための不就労時間に算入し、その不就労時間と他の不就労時間とを合わせた合計が、全労働時間の二〇パーセントを超えるときには、賃金引上げの対象から除外する旨定めたものであるから、本件八〇パーセント条項は、結局、前記労基法その他の法律上認められた年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとり、労働災害による休業及び通院をし、ストライキや団体交渉等をしたことを理由にした不利益な取扱いを定めたものというべきであるしまた、右条項は、労働者をして、爾後右各権利行使による休暇を取得し、休業及び通院をし、ストライキ、団体交渉等をすることを抑制する機能を有しているものというべきである。
従って、本件八〇パーセント条項は、強行法規である労基法三九条、六七条、六五条、六六条、七五条、七六条、七七条、一九条、憲法二八条、労組法七条等の各規定ないしその規定の趣旨に違反し、ひいては民法九〇条の公序良俗に反するものというべきであるから、当然無効というべきである。
4 もっとも、
(一) 被告は、労基法三九条は、労働者の年次有給休暇権の行使を妨げる措置をとってはならない旨の不作為義務を使用者に課したものではないとし、賞与の算定や昇給の資料に年次有給休暇の消化日数を用いても民事上無効ではないから、本件八〇パーセント条項は、労基法三九条、民法九〇条の公序良俗に違反しないと主張している。しかしながら、前述の如く、年次有給休暇の取得権は、労基法によって認められた権利であるから、使用者は、同法三九条三項による時季変更権を行使する場合は格別、それ以外の如何なる場合にも、その行使を妨げてはならず、また、右年次有給休暇を取得したことを理由に、賃金引上げ等において差別することは、右権利の行使を妨げる結果になるから、許されないものというべきである。よって、右被告の主張は失当である。
(二) 次に、被告は、労基法は、生理休暇の有給を保障しておらず、また、その無給を禁止しているわけではないから、生理休暇取得者に対して手当を支給せず、又は、これを減額する結果となり、生理休暇の取得を抑制する事態が生じても違法ではないし、また、年次有給休暇に加えて生理休暇を取得しても稼働率八〇パーセントを下廻ることがないので、不利益を避けるために生理休暇の取得を差し控える必要もないから、生理休暇を八〇パーセント条項の不就労日に算入することは違法でないと主張している。しかしながら前述の通り、生理休暇は、労基法六七条が女子労働者に認めた権利であるから、使用者がその権利の行使を抑制することは許されないと解すべきところ、生理休暇をとったことを理由に賃金引上げについて差別を設けて不利益に取扱うことは、生理休暇を取得することを抑制する結果をもたらすことになるから許されないものと解すべきであり、このことは、労基法が生理休暇を有給とせず、あるいは年次有給休暇と生理休暇との不就労日間を合わせてもそれだけでは稼働率八〇パーセントを下廻ることがないとしても、左右されるものではないと解すべきである。けだし、年次有給休暇、生理休暇に、産前産後の休暇や育児時間、労働災害による休業時間、通院時間、ストライキ等による組合活動の時間を加えれば、稼働率八〇パーセントを下廻ることもあるからである。よって、右の点に関する被告の主張も失当である。
(三) 次に、被告は、女子労働者が産前産後の休暇及び育児時間をとったことを理由に不利益な取扱いをすることを禁止した法律はないのみならず、被告会社では、産前産後の休暇及び育児時間の取得による不就労についても賃金を支払っているから、これを本件八〇パーセント条項の不就労日に算入しても違法ではないと主張している。しかしながら、前述の通り、労基法六五条、六六条が女子労働者に産前産後の休暇及び育児時間を保障した趣旨からすれば、産前産後の休暇及び育児時間をとったことを理由に賃金引上げ等において不利益な取扱いをすることを禁止したものと解すべきである。けだし、このように解さなければ、労基法六五条、六六条で産前産後の休暇及び育児時間をとる権利を保障した趣旨が没却せられるからである。
なお、産前産後の休暇及び育児時間を有給にすることと、産前産後の休暇及び育児時間をとったことを理由に将来の賃金引上げにおいて差別することとは全く別の事柄であって、産前産後の休暇及び育児時間を有給にしたからといって、そのことから将来の賃金引上げにおいて差別をすることが合法となるものではない。
けだし、労働と賃金は対価関係に立つものであるから、産前産後の休暇及び育児時間を無給とすることも、双務有償の雇傭契約の性質から当然に許されるべきことであるのに対し、産前産後の休暇及び育児時間をとったことによる賃金引上げの際の差別は、当該労働者が退職するまで影響するのみならず、右による不就労と賃金引上げの拒否とは対価関係に立たないからである。
よって、右の点に関する被告の主張も失当である。
(四) 次に、被告は、労基法七五条は、使用者に療養補償義務を課した規定に過ぎず、労働災害による休養及び通院についても、労基法三九条五項により年次有給休暇の取得にあたって特別の算定方法を定め、不利益な取扱いを回避させようとしているに過ぎないとし、また、被告会社では労働災害による休業及び通院については全額賃金の支払をしているから、労働災害による休業及び通院を本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入することは何ら違法ではないと主張している。しかしながら、前述の通り、労働災害による休業及び通院については、労基法七五条、七六条、七七条、三六条、三九条の規定の趣旨から、右による不就労を理由に賃金引上げ等において差別することは許されないものと解すべきであるし、また、被告が右労働災害による休業及び通院については賃金を全額支払っているからといって、そのことを理由に、将来の賃金引上げについて差別をし、賃金引上げを拒否することは、労働者が労働中の災害によって休業及び通院を余儀なくされているという労働災害の特質に照らして許されないばかりでなく、労基法七六条の規定の趣旨に照らしても許されないものというべきである。
よって、右の点に関する被告の主張も失当である。
(五) 次に、被告は、ストライキについては、賃金請求権は発生せず、賞与の支給に当り、労務の不提供の範囲で減額することは適法であるから、右ストライキによる不就労を本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入することは適法であると主張している。成程、ストライキによる不就労については賃金請求権が発生しないけれども、このことと、ストライキによる不就労を理由に賃金引上げについて差別しこれを拒否することとは別個の事柄であって、前述の通り、ストライキによる不就労を理由に賃金引上げについて差別することは、ストライキという争議行為を理由とした不利益な取扱いというべきであるから、許されないものというべきである。
(六) 次に、被告は、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇の一部、育児時間等は、これをとるか否かは、労働者の自由であることや、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとった場合に、これを必ずしも有給としなければならないものではないこと等、種々の事情をあげて、本件八〇パーセント条項は有効であると主張している。成程、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとるか否かは、一応労働者の自由であり、また、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとった場合に、必ずしもこれを有給としなければならないものではないけれども、前述の通り、労働者が年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとったことを理由に、賃金引上げに際して差別をし、賃金引上げを認めない取扱とすることは、労働者の右権利行使の自由を妨げる結果を招くことになるから、許されないものというべきである。
よって、右の点に関する被告の主張も失当である。
(七) なお、被告は、本件八〇パーセント条項の適用にあたっては、救済措置があって、前年一年間の稼働率が八〇パーセント以下の者であっても、翌年一月から三月までの稼働率が八〇パーセント以上の者には賃金引上げがなされること、女子従業員が年次有給休暇二二日を全部とり、生理休暇を年間二四日とったとしてもその年間非稼働率は、一七パーセントの範囲におさまり、本件八〇パーセント条項に該当しないし、現実に右八〇パーセント条項に該当するとして賃金引上げ対象から除外されたものは極めて少ないこと、また、長期の労働災害休業や産前産後の休暇の場合には八〇パーセント条項により昇給不可能となるが、被告は、これらの長期休業に対しても、全部有給で賃金を支払っているので、それとの兼ね合いで昇給しない場合があったとしても、衡平は保たれていること等を一事由に本件八〇パーセント条項は有効であると主張する。
しかしながら、本件八〇パーセント条項の不就労時間には、前述の通り、年次有給休暇や生理休暇による不就労の外、産前産後の休暇及び育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキや団体交渉等による不就労も含まれ、これらの不就労や年次有給休暇、生理休暇による不就労が合計二〇パーセント以上になったときは、賃金引上げの対象から除外されることになる。例えば、労基法三九条五項では労働災害で休業した期間や、同法六五条で認められている産前産後の休暇時間は、年次有給休暇に関する同条一項の適用関係では出勤したものとみなされるのに、本件八〇パーセント条項では、これらはすべて不就労(欠勤)として扱われるから、労働災害による休業及び通院や産前産後の休暇として年間に五〇数日を取れば、もはや年次有給休暇や生理休暇をとることもできず、年次有給休暇や生理休暇をとれば、本件八〇パーセント条項では不就労(欠勤)として扱われ、同条項に該当するとして賃金引上げの対象から除外されることになるが、このような取扱いは前記労基法に違反するものといわなければならない。そして、このことは、産前産後の休暇を有給としたからといって異るものでないことはさきに(前記(三))に述べた通りである。従って、本件八〇パーセント条項は、前述の労基法等の規定ないしはその趣旨に違反し無効というべきである。
なお、本件八〇パーセント条項の適用に際し、被告主張の救済措置があり、また被告において、現実に本件八〇パーセント条項に該当するとして、賃金引上げの対象から除外されるものが極めて少ないからといって、右条項が有効となるものでないことは勿論である。
よって、右の点に関する被告の主張も失当である。
(八) また、被告は、本件八〇パーセント条項は、原告らの所属する日シ労組自身が被告との団体交渉の結果、これを承諾し、労働協約の重要な一事項として確約したものであり、しかも他の組合である全日シ労組も被告と同じ内容の協定を結び、その結果右協定は被告会社において定着していると主張し、また、本件八〇パーセント条項は、被告の業績が悪化したところから、従業員の稼働率を上げ、被告の業績を向上させる目的でなされたものであるとして、本件八〇パーセント条項は、有効であると主張している。
しかしながら、前述の通り、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得することや、労働災害による休業及び通院をし、ストライキ、団体交渉等をすることは、強行法規である労基法その他の法律等によって保障された権利であるから、労働者において現実にこれを行使するか否かの自由はあるにしても、労働者が使用者との契約により、予めこれを行使しないことを約したり、或いは、右各権利を行使したことを理由に、賃金引上げその他において差別され不利益な取扱いを受けることを承認することは、前述の強行法規である労基法その他の法律等に違反するものであって、右契約は無効というべきである。ましてや、右各権利を有する個々の労働者ではなく、その労働者の所属する労働組合が、使用者との団体交渉において、個々の労働者の意思とは関係なく、各労働者がその固有する右各権利を行使したことを理由に、その後の賃金引上げ等において不利益な取扱いを受けることを認める趣旨の協定を締結することは許されず、右協定を締結しても、それは、前記労基法等の各規定に違反して無効というべきであり、このことは、被告主張の如く右協定が被告会社において定着しているとしても変りはないというべきである。
また、被告の経営が、被告主張の如く悪化していたとしても、その業績を上げるため、労基法等に違反する本件八〇パーセント条項を設けて従業員の稼働率を上げることは許されず、右稼働率を上げるためには、労基法による休暇以外のいわゆる欠勤を少なくするとか、労働災害が起きないように職場を改善するとか、要するに労基法等に牴触しない他の方法をもって行うべきであるから、被告主張の目的の正当性から、本件八〇パーセント条項を有効なものと認めることはできない。
よって、右の点に関する被告の主張も失当である。
(九) さらに、被告は、原告らの不当労働行為の主張との関連において、本件八〇パーセント条項については、昭和五一年度にこれが設けられて以後、原告らの所属する日シ労組は、これが適用されることについて異議を述べないとの協定も再三締結しているから、その不当性は治癒されているし、禁反言の法理からも、その無効を主張することは許されないとの趣旨の主張もしているが、前記労基法等の強行法規や民法九〇条の公序良俗に違反して無効な本件八〇パーセント条項が、その後の日シ労組のいわゆる追認によって有効となるものではなく、また、日シ労組が右条項の有効性を追認したとしても、右日シ労組と法的人格を異にする原告らが、本訴において、もともと無効な右条項の無効を改めて主張することは何ら禁反言に反するものではないというべきである。なお、(証拠略)によれば、昭和五七年度の賃金引上げに関する本件協定では、「……本件協定の適用に当り一切の苦情・紛争、訴訟等を起こさないことを確約した」旨の条項のあることが認められるが、本件八〇パーセント条項は、前記の通り、強行法規に違反し、かつ、公序良俗に反するものであるから、日シ労組と被告との間において、本件八〇パーセント条項につき、苦情、紛争、訴訟等を起こさないことを確約しても、右確約は、結局、強行法規や公序良俗に反することを容認するものであって、右確約自体強行法規や公序良俗に反するものとして、当然無効である。
よって、右の点に関する被告の主張は失当である。
五 本件各協定中賃金引上げ部分等の効力
1 次に、被告は、本件八〇パーセント条項が無効であるとすれば、賃金引上げを認めた本件各協定全部が無効であると主張している。すなわち、本件八〇パーセント条項は、賃金引上げ額と一緒にされ、一体となって本件各協約の要素となっており、また、それの有効なることが停止条件となっているものであるから、本件八〇パーセント条項が無効である場合には、本件各協定は、民法九三条但書、及び同法九四条により当然無効であり、また右協定はその要素に錯誤があって無効であるし、さらに、条件不成就によりその全部が無効となると主張している。そして、(証拠略)によれば、被告は、日シ労組との団体交渉において、日シ労組が被告の提案する本件八〇パーセント条項を受諾したので、賃金引上げを含む本件各協定を締結したものであって、日シ労組が本件八〇パーセント条項を受諾しなければ、本件各協定を結締しなかったことが一応認められる。
2 しかしながら、本件各協定が民法九三条但書及び同法九四条により当然無効であるとの事実は、本件における全証拠によるもこれを認めることはできない。
また、前記1の認定事実のみから、本件八〇パーセント条項が有効なることをいわゆる停止条件として本件各協定が締結されたものとは認め難いし、また右の点に関する(人証略)は信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。却って、(証拠略)によれば、本件八〇パーセント条項は、本件各協定中の賃金引上げ率、その配分方法、諸手当、実施時期、その他の協定条項のうちの一つとして定められているに過ぎず、本件各協定中には、本件八〇パーセント条項が有効なることを条件として本件各協定を締結する趣旨や、各条項が無効であれば本件各協定はその効力を生じない趣旨を現わした部分は何らないこと、以上の事実が認められる。
そして、以上の事実や、別紙請求債権目録一記載の原告らは、昭和五一年度ないし同五四年度の賃金引上げに関する各協定中八〇パーセント条項が違法無効であるとして、右各年度の賃金引上げ相当の賃金の支払を求める訴えを大阪地方裁判所に提起したところ(大阪地裁昭和五二年(ワ)第一一六八号、同五三年(ワ)第七一二三号、同五五年(ワ)第二〇五〇号)、昭和五六年三月三〇日、右事件につき本件八〇パーセント条項が無効である趣旨を含む判決がなされたことは当事者間に争いがなく、従って弁論の全趣旨から本件の昭和五五年度協定は、右訴訟中の昭和五五年四月二七日に締結され、また、昭和五六年協定及び同五七年度協定は、いずれも右判決後に締結されたものであることが明らかであること等の諸事実を総合して考えると、本件各協定は、本件八〇パーセント条項が有効なることを停止条件としたものとは認め難く、却って、被告は、日シ労組が本件八〇パーセント条項を受諾したので本件各協定を締結するに至ったものであって、その関係は、一般の契約において契約条件につき双方が合意に達したために契約が締結された関係と何ら変らないというべきである(この場合、通常は契約条項の一つの有効であることが契約全部の効力発生の条件となっているものではない)。したがって、本件各協定が停止条件付であったとし、これを前提として本件各協定全部が無効であるとの被告の主張は失当である。
次に、(証拠略)によれば、次の事実が認められる。すなわち、日シ労組は、昭和五一年四月に被告が本件八〇パーセント条項を提案して以来、その違法不当を主張して撤回を求めたが、被告は、これを拒否し、本件八〇パーセント条項を受け入れなければ、賃金引上げに応じない旨の態度を固持していたために、日シ労組は、やむなく一応これを受諾したこと、しかし、日シ労組は、当初から本件八〇パーセント条項は違法・不当なものと考えていたので、昭和五一年度及び同五二年度における本件賃金引上げ協定を締結した後、本件八〇パーセント条項は違法・不当であるから、後日これを取上げて争う旨の意思を表明し、その旨被告に通告していること、そして、別紙請求債権目録一記載の原告らは、前記の通り、昭和五一年度ないし同五四年度の賃金引上げに関する各協定中八〇パーセント条項が違法無効であるとして、右各年度の賃金引上げ相当の支払を求める訴えを提起し、その訴訟係属中及び右事件に対する判決言渡後に昭和五五年度ないし五七年度の本件各協定が締結されたものであるうえ、昭和五五年度以降の本件各協定を締結するに際しても、日シ労働組合は、本件八〇パーセント条項は違法・不当であるとし、後日、これを取り上げて争う旨の意思を表明し、その旨被告に通告していること、以上の事実が認められる。しかして、以上の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、被告は、本件八〇パーセント条項を一応は協約の一内容と考えて本件各協定を締結したけれども、日シ労組は、これを有効なものと考えて本件各協定を締結したものではないと認めるのが相当であって、右認定に反する(人証略)はたやすく信用できないものというべきである。してみれば、本件各協定はその当事者双方が一致して本件八〇パーセント条項を有効なものとし、このことを本件各協定の内容・要素として締結したものではないというべきであるから、本件各協定には被告主張の如き要素の錯誤はないというべきである。
なおまた、本件各協定のうち八〇パーセント条項が労基法等の強行法規や公序良俗に反して無効なことを前提とした錯誤を理由に、本件各協定全部の無効を認めることは、右労基法等の強行法規によって経済的弱者である労働者を保護しようとした法の趣旨に反して許されないものと解すべきである。けだし、一般に、契約締結に際し、借地借家人等やその他経済的弱者の保護のために設けられた強行法規に反する条項を含む契約条項を自ら持出してその条項による契約を締結させておきながら、その後になって右強行法規に反する条項が無効であることを理由に、契約の要素に錯誤があるとして、契約全部の無効の主張を許すことは、右強行法規によって経済的弱者を保護しようとした法の趣旨に反して許されず、右の場合は、民法九五条の錯誤の規定の適用はなく、当該強行法規違反の条項のみが無効になると解すべきところ、本件の場合もこれと同様に解すべきであるからである。
従って、以上いずれにしても、本件各協定が要素の錯誤により無効であるとの被告の主張は失当である。
3 しかして、一般に、契約の一部が強行法規違反等の理由により無効な場合には、右強行法規の規定の趣旨や条理、当事者の意思その他により、これを合理的に解釈して、その契約全部が無効となるか否かを判断すべきところ、本件八〇パーセント条項を無効ならしめる前記労基法等の各規定は、いずれも経済的弱者である労働者保護の規定であって、これに違反する条項を含む契約がなされた場合には、当該条項のみを無効とするのが右各規定の趣旨に合致する場合が多いといえるし、また、本件八〇パーセント条項が無効なために、本件各協定全部が無効になるとすれば、日シ労組の賃金引上げ要求に基づく交渉が、当事者双方の予期しない事情のため本件各協定の成立後中断され、賃金引上げのなされないままの状態となって、日シ労組側にとって極めて不利益となるのに対し、被告は、前記の如く違法な本件八〇パーセント条項を持出したことにより、現在まで賃金引上げ交渉を遷延して賃金引上げを免がれたことになって不当に利益を得たことになるし、さらに、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件原告ら以外の日シ労組の組合員については、本件各協定が有効なものとして、既に本件各協定による賃金引上げを実施し、現実に右賃金引上げ相当の賃金を支払っていることが認められるのであって、これらの諸点や前記3に認定の諸事情その他本件における諸般の事情を総合して考えると、本件八〇パーセント条項が無効なために、賃金引上げを含むその他の本件各協定の全部が無効であると解するのは著しく不合理であるから、本件八〇パーセント条項は無効ではあるが、それ以外の本件各協定の条項はすべて有効と解するのが相当である。
六 原告らに対する未払賃金等
1 以上の通りであって、昭和五一年度以降に、日シ労組と被告との間に締結された賃金引上げに関する各協定のうち、本件八〇パーセント条項は無効であるが、その余の条項は有効であり、また、右各協定による昭和五五年度以降の賃金引上げは、毎年賃金引上げ交渉が妥結した月である四月一日から実施されていたものというべきであるから、昭和五一年度以降の賃金引上げにおいて、本件八〇パーセント条項に該当するとして賃金引上げがなされなかった原告らについても、毎年四月一日以降本件八〇パーセント条項の適用を受けないで賃金引上げがなされた他の従業員と同一の賃金引上げ率(本件各協定に定める引上げ率)によって賃金引上げがなされたものというべきである。そして、(証拠略)によれば、被告の賃金支払期日は毎月二五日であることが認められる。
また、(証拠略)によれば、被告では、毎年六月又は七月と一二月に、夏季及び冬季の各一時金が支払われているところ、その額は、各従業員の毎月の賃金額を基礎として、これに一定の率を乗じた額にプラスアルファをした額であること、そして、昭和五七年度の冬季一時金についても、遅くとも同年一二月二五日までに支払われたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
さらに、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、被告の従業員が退職したときは、退職金として、右退職者の退職時の賃金額に一定の率を乗じて算出した額が支払われることになっていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
従って、原告らは、被告に対し、本件八〇パーセント条項が適用されずに賃金引上げがなされた場合の賃金額並びに、これを基礎として算出された夏季及び冬季の各一時金、退職金の支払を求める権利があるものというべきである。
2 次に、原告南方保子が昭和三九年四月二三日、被告に雇用され、五五年七月一一日付で被告を退職したことは当事者間に争いがなく、また、弁論の全趣旨によれば、原告朝次子が昭和五七年七月三〇日付で被告を退職したことが認められるから、右各原告らは、右退職時の賃金月額に一定の率を乗じて算出した退職金の支払を受ける権利があるというべきである。
3 ところで前記のとおり、別紙請求債権目録一記載の各原告らは、昭和五一年から五四年までのうち同目録一の(1)欄に記載の各年度に、本件八〇パーセント条項に該当するとして、該当年度の賃金引上げがなされなかったところ、被告は、右各原告らが被告を相手にして、右未払賃金等の支払を求めて提起した大阪地方裁判所昭和五二年(ワ)第一一六八号、同五三年(ワ)第七一二二号、同五五年(ワ)第二〇五〇号事件で支払いを命ぜられた別紙請求債権目録一の(2)に記載の金額と同(3)欄に記載の昭和五五年四月以降一か月につき生ずる差額金を支払っていることは当事者間に争いがない。
次に、右原告らにつき、昭和五一年度ないし同五四年度において本件八〇パーセント条項を適用しなかった場合の賃金引上げ額と、被告が現実に支払った後金額との昭和五六年四月から昭和五七年一二月末までの差額合計が同目録一の(6)ないし(8)欄に、同じく昭和五七年四月以降一か月につき生ずる右差額が同目録一の(5)欄に、さらに右差額を基礎として算出した昭和五五年冬季、昭和五六年夏季、同年冬季、昭和五七年夏季、冬季各一時金の差額が同目録一の(9)ないし(13)欄に、それぞれ記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
4 次に、本件八〇パーセント条項が適用されずに賃金引上げがなされた場合における別紙請求債権目録二、三の各原告らの昭和五五年四月一日からの賃金引上げ額が同目録二、三の各(1)欄記載の金額であり、別紙請求債権目録四の各原告らの昭和五六年四月一日からの賃金引上げ額が同目録四の(1)欄記載の金額であり、別紙請求債権目録五の原告東喜代子の昭和五七年四月一日からの賃金引上げ額が同目録五の(1)欄記載の金額であること、また、別紙請求債権目録二に記載の各原告らの本件八〇パーセント条項が適用されずに賃金引上げがなされた場合の賃金額と現実に支払われた賃金額との昭和五六年四月以降同五七年一二月末までの差額の合計が同目録二の(5)ないし(7)欄に、右差額を基礎として算出した昭和五五年冬季、昭和五六年夏季、同年冬季、昭和五七年夏季、同年冬季の各一時金差額が同目録二の(8)ないし(12)欄に、昭和五七年四月以降一か月につき生じる右賃金差額が同目録二の(4)欄にそれぞれ記載のとおりであること、原告南方保子の右同様の昭和五五年四月以降同年七月一一日に退職するまでの差額が別紙請求債権目録三の(2)欄に、右差額を基礎として算出した同原告の退職金差額が同目録三の(3)欄に記載のとおりであること、別紙請求債権目録四に記載の各原告らの右同様の昭和五六年四月から五七年一二月末までの賃金差額が同目録四の(4)ないし(6)欄に、右差額を基礎として算出した昭和五六年夏季、同年冬季、昭和五七年夏季、同年冬季の各一時金の差額が同目録四の(7)ないし(10)欄にそれぞれ記載のとおりであること、原告朝次子の右同様の退職金差額が同目録四の(11)欄に記載のとおりであること、別紙請求債権目録五に記載の原告の右同様の昭和五七年四月から同年一二月末までの賃金差額が同目録五の(3)、(4)欄に、右差額を基礎として算出した昭和五七年夏季、同年冬季の各一時金の差額が同目録五の(5)、(6)欄にそれぞれ記載のとおりであること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
5 よって、被告は、原告らに対し、右賃金引上げに伴う賃金、一時金及び退職金の差額を支払う義務があり、かつ、昭和五八年一月分以降の賃金差額については、これを毎月二五日に支払う義務がある。
6 次に、原告らは、被告の右賃金、一時金、退職金等を支払わない債務不履行ないし不法行為による精神的苦痛を受けたとして金三万円ないし五万円の慰謝料の請求をしている。しかしながら、本件は、遅滞にかかる金銭債務の履行を求めるものであるところ、民法四一九条は、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率によるものとし、債権者はその損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえこれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものと解すべきである(最高裁判所昭和四八年一〇月一一日判決・判例時報七二三号四四頁参照)。したがって、被告の債務不履行を前提とした原告らの慰謝料請求は、この点において失当である。また、被告の不法行為を理由とした慰謝料請求については、前述の如く、原告らが契約上の権利に基づき、賃金、一時金、退職金等の支払請求権を有している以上、原告ら主張の被告の不当労働行為によって右請求権が侵害されたとはいい難いから、被告の右賃金等の不払がさらに不法行為を構成するものとは解し難い。のみならず仮に不法行為を構成するとしても、被告が右賃金等を支払わないことによる損害は、純然たる財産的損害であるというべきところ、このような財産的損害を受けた場合には、その財産的損害が賠償されれば精神的損害も一応回復されたと解すべきであって、ただ右財産的損害を回復されてもなお回復され得ない精神的損害を受けた特別の事情がある場合に限って、精神的損害の賠償を請求し得るものと解すべきである。ところで、本件においては、原告らが財産的損害を回復されても、なお回復され得ない精神的苦痛を被った特別の事情の存在を認めることができないのみならず、本件は、単なる金銭債務の不履行に基因するものであるから、原告らが右財産的損害の回復によって回復され得ない精神的苦痛を被ったものとは到底認め難い。
もっとも、原告らは、本件八〇パーセント条項の狙いは、原告らに労基法上、労組法上の権利行使を抑制させたに留らず、原告ら日シ労組員を不利益に扱い、組合の団結を根底から崩し、女性労働者に子供を産むこと等を控えさせ、女性労働者と男性労働者とを差別し、女性労働者を職場外に放逐することにあるとか、本件八〇パーセント条項による不利益は被告を退職するまで続くとか、本件八〇パーセント条項の導入は、不当労働行為、人権侵害の一環としてなされたとか、その他種々の事情を述べて、本件八〇パーセント条項により原告らが被った精神的損害は、賃金引上げ額あるいはその相当額の支払を得るだけでは治癒されない旨主張する。
しかしながら、右原告らの主張に副う(証拠略)はいずれもたやすく信用できず、他に右原告らの主張事実を認め得る証拠はない。却って、前述の通り、本件八〇パーセント条項は、労基法等の強行法規や公序良俗に違反するものであって当然無効であるから、本件八〇パーセント条項があるからといって、原告らが、その法律上認められ権利として、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとり、労働災害による入院、退院をし、ストライキ、団体交渉等をすることは、法律上何ら妨げられないのであり、また、原告らが右の権利行使をしたために、被告が本件八〇パーセント条項を適用して賃金引上げを拒否して、事実上右賃金引上げ相当分の賃金及びこれを基礎として算出した一時金、退職金等を支払わないことによる不利益は、財産的なものであって、右不利益は、法的手段に訴えて、右不払いの賃金、一時金、退職金等の差額の支払を求めることができ、かつ、原告らが被告の右不払いにより何らかの精神的苦痛を被ったとしても、右精神的苦痛は、その事柄の性質上、法的手段によってその支払を得ることにより回復され得るものというべきである。
よって、慰謝料の支払を求める原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
7 次に、原告らの弁護士費用の請求について判断するに、本件において、原告らは第一次的には契約に基づいて賃金、一時金、退職金等の金銭債権の支払を求めているものであるところ、一般に債権者は、民法四一九条の規定の趣旨に照らし、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用の請求することはできないと解すべきである(前掲最高裁判所昭和四八年一〇月一一日判決参照)。また、被告の不法行為を理由とした弁護士費用についても、被告の本件賃金、一時金、退職金の不払いが不法行為を構成するものと認め難いことは前述の通りであるし、仮に、不法行為を構成するとしても不法行為による弁護士費用は、不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合に限ってその賠償が請求できると解すべきところ(最高裁判所昭和四四年二月二七日判決・民集二三巻二号五二五頁参照)、本件においては、原告らは前記の如く契約上の権利に基づいて未払の賃金、一時金、退職金の請求をできるのであるから、不法行為による損害賠償の訴を提起を余儀なくされたものとは到底認め難い。
よって、弁護士費用の支払を求める原告らの請求は、以上いずれの点からするも、その余の点について判断するまでもなく失当である。
七 結論
よって、原告らの本訴請求は、被告に対し、雇用契約上の権利に基づく賃金、一時金、退職金の支払請求として、(イ)別紙請求債権目録一記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する同目録一の(20)の認容額欄記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する同目録一の(16)欄に記載の各金員に対するその支払期後で昭和五六年(ワ)第九四九二号事件の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年一月一二日から、同目録一の(18)欄に記載の各金員に対するその最終の支払期日の翌日である昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する同目録一の(21)欄に記載の各金員(同目録(5)欄に記載の金額から前記別件訴訟の判決で支払を命ぜられた同目録(3)欄に記載の金額を控除した金額)、(ロ)別紙請求債権目録二記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する同目録二の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する同目録二の(15)欄に記載の各金員に対する前記昭和五七年一月一二日から、同目録二の(17)欄に記載の各金員に対する前記昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する同目録二の(4)欄に記載の各金員、(ハ)別紙請求債権目録三記載の原告南方保子において同目録三の(7)の認容額欄に記載の金員及びこれに対する右原告が退職した日以降である前記昭和五七年一月一二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(ニ)別紙請求債権目録四記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する同目録四の(18)の認容額記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する同目録四の(14)欄に記載の各金員に対する前記昭和五七年一月一二日から、同目録四の(16)欄に記載の各金員に対する前記昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、同目録四記載の原告森本昭子について昭和五八年一月から毎月二五日限り右原告に対応する同目録四の(3)欄に記載の金員、(ホ)別紙請求債権目録五記載の原告東喜代子において、同目録五の(13)の認容額欄に記載の金員及びそのうち同目録五の(9)欄に(ママ)記載に対する昭和五七年(ワ)第九一二五号事件の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年一二月一一日から、同目録五の(11)欄に記載の金員に対する前記昭和五七年一二月二六日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、昭和五八年一月から毎月二五日限り同目録五の(2)欄に記載の各金員の各支払を求める限度で正当であるからその限度で認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 千川原則雄 裁判官小宮山茂樹は転任のため署名捺印できない。裁判長裁判官 後藤勇)
請求債権目録 一
<省略>
請求債権目録 二
<省略>
請求債権目録 三
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請求債権目録 四
<省略>
請求債権目録 五
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